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2011/04/17

ペットボトル・キャップ・クライシス

この週末、東京では満開だった桜の花が散った。今年は、春の到来を寿ぐこともなく季節が過ぎて行った。人々は、心に半旗を掲げならが暮らしている。深夜、街は息を凝らし、その存在感を誇示すかのように灯されていた煌々たる光の束はもはやそこにはない。行き交う人の気配さえその闇の中に押しとどめている。いつしか、自らの心の迷宮に足を掬われそうになる。

3月11日の大地震と大津波がもたらした惨状は、あまりにも悲惨で言葉にすら出来ない。大津波はそれまでの原発の 「安全神話」 の虚構を剥ぎ取り、人々の生活を非日常の中に叩き込んだ。

地震発生から1ヵ月を経過したと言うのに、毎日のように震度4以上の余震が続く。福島第一原発の炉心は既にメルトダウンを起していると言われる。今頃になって、チェルノブイリと並ぶ 「レベル7」 であったと政府は過去形で発表している。体温計の目盛りが42℃までしか刻まれていないように、IAEA (国際原子力機関) の事故評価尺度も 「レベル7」 までしかない。それ以上は人類存亡の危機を意味するからである。

放射能が際限なく撒き散らされ、汚染被害を食い止める術すらない。被災者の苦難を思えば、こんなことでワナワナとふるえ慄いている自分が恥ずかしくなる。でも、今にも心が折れそうなる。これが偽わざる心境である。

ここ1ヵ月間、ブログの更新を控えて来た。ペットボトルキャップについて語ることが、今本当に必要かどうかを幾度となく自問自答してみた。今なすべきことが、他にあるのではないかと考えた。はっきり言って、いまだに答えが見出せずにいる。

更新休止期間中、皮肉にもアクセス数が1日平均1000件を超える日が幾日も続いた。平時には100件前後のアクセス・ビューにもかかわらずである。読者の関心事は、個々の清涼飲料水の製造工場が <何処> なのかに集約された。「食の安全性」 に対する危機感の現われなのであろう。確かにマスメディアが喧伝するように、過剰反応に思えなくもない。でも、正確な判断材料が得られない中、みんな懸命なのだと思う。

そもそも 「製造所固有記号」 とは、飲料メーカーが食品包装の表示面積の制約のために、製造者と販売者を併記することが出来ない場合に限り、あらかじめ消費者庁長官にを届け出た場合にのみ、例外的に販売者の表示で代用出来るとした制度に過ぎない。決して、依託メーカーの名称や所在地を秘匿するための制度ではない。今日のそれは、食品メーカーの隠れ蓑として使われている。本来の目的を逸脱した使用法であるが、なぜか黙認されている。飲料メーカー各社は、直ちに 「製造所固有記号」 の一覧表を自社ホームページに公開すべきである。また、電話やメールでの問合せにも、まじめに対応すべきである。このことは、消費者庁食品表示課が2009年9月に作成した 「製造所固有記号に関する手引き (Q&A)」 において明記されている。そこには、製造所所在地だけでなく製造者の情報も提供するように示唆されている。

また、キャップ供給が滞るため、操業停止を余儀なくされる飲料メーカーからの問合せも頂いた。もはや、ここに留まっている訳にはいかない。一刻も早く日常を回復する必要がある。当ブログは当初、日々の些細な出来事を記録する目的で始めた。今もそのスタンスは変わらない。その切り口がペットボトルキャップであったに過ぎない。でも、こうした何でもない情報を必要とする人々がいることを知った。

大震災発生から1ヵ月後の2011年4月13日 (水)、全清飲 (全国清涼飲料工業会) は、ペットボトルキャップの 「白無地統一」 に合意した。ペットボトルキャップも今回の大惨事から無縁ではいられない。今回は、この決定に至るまでの、ここ1ヵ月間の出来事を振り返ってみた。巻末に、参考資料として関連記事を時系列にまとめた。

              ★

今回の大惨事は、マグニチュード9.0という巨大地震、100年に1回の規模の大津波、そしてレベル7の福島第一原発事故という3つの要因が重なった結果である。加えて、政府の無策と風評被害が状況を更に悪化させている。

2011年3月11日 (金)、大震災発生直後より首都圏の鉄道網はすべて遮断され、夕方、多くの帰宅難民をつくり出した。既にこの時点でコンビニ棚からミネラルウォーターは姿を消しつつあった。

この日、日本山村硝子プラスチックカンパニー宇都宮工場 (栃木県宇都宮市 ) [1]と、日本クラウンコルク石岡工場 (茨城県石岡市) [6] が被災し、操業停止に陥っていた。

3月14日 (月) から実施された東京電力の計画停電の影響により、コンビニの照明は一部が落とされた。陳列棚からは完全にミネラルウォーターが姿を消した。この時点では、被災地向け緊急支援のため、一時的な品薄状態と考えていた。

クロージャー・システム・インターナショナル・ジャパン (CSIジャパン) の野木工場 (栃木県下都賀郡野木町) も、計画停電実施エリア第2グループ (後に2-Aに細分化) にあることから、操業にかなりの影響が出ていたものと思われる。

当初、2L入りミネラルウォーターのみならず、国産の500mL入りの小型PETに至るまで品薄状態が続いていた。その後、商品の未入荷状態が除々に解消され、70~80%程度まで回復した。

転機は3月23日 (水) に訪れた。この日、東京都水道局金町浄水場の水道水から、乳児の摂取制限の暫定基準値を超える濃度の放射性ヨウ素131が測定されたことが発表された [3]。この報道発表を契機として、ミネラルウォーターパニックが始まった。またもや、コンビニ棚から一斉にミネラルウォータが消えた。ミネラルウォーター製造工場には、生産が追いつかない程の追加注文が寄せられ [4-5,7,10,14]、飲料メーカー各社は緊急輸入を検討し始めた [12,17]。

そして、3月23日 (水)と3月25日 (金)、飲料キャップ供給メーカー第3位の日本山村硝子と第1位の日本クラウンコルク両社が、当面の間、東北地方にある自社工業の復旧が困難であることをプレスリリースにて明らかにした [2,6]。すなわち、ペットボトルキャップの国内供給体制が危機的状況にあることの正式な表明である。また、復旧までには3~4ヶ月を要するとする観測が流れた。

供給不足に陥っているのは、キャップばかりでなく、各種食品や飲料のボトルやラベルに至る包装資材全般に及んでいる [11,15,27]。このため、発泡スチロール製容器に入った納豆が一時完全に姿を消した [27]。また、サーフビバレッジ社は、シュリンクラベルなどの商品表示の一切無い1Lペットボトル入りミネラルウォーターを消費者庁への届出によって、実現している。

キャップ供給メーカー各社における被災状況は以下の通りである。

キャップメーカー最大手の日本クラウンコルクは、主力2工場のうち石岡工場 (茨城県石岡市) が被災したため、現在、岡山工場 (岡山県勝田郡勝央町) にて増産体制に入っている [8]。業界第2位のCSIジャパン社は、明確な被災状況の発表はないものの、野木工場 (栃木県下都賀郡野木町) にて操業を継続しているものと思われる。業界第3位の日本山村硝子プラスチックカンパニーも、主力2工場のうち宇都宮工場 (栃木県宇都宮市 ) が被災したため、残る関西工場 (兵庫県加古郡播磨町) にて増産体制に入っている [8]。これにより、生産量は全国で通常時の3/4まで低下しており、供給が停止された飲料メーカーも出始めていると言う [8]。

日本の飲料キャップの製造は、上記の3社に大和製罐の子会社である大和ノーベンバル社 (大阪府茨木市) を加えた4社で全体のシェアの90%に及んでいる。飲料キャップは、キャップ飛び、内容物の漏洩、炭酸濃度の維持など、気密性と内圧制御の必要上、他の用途のキャップに比べ、遥かに高い精度を要求されている。また、導入時の製造ライセンスの関係上、他のプラスチックキャップ製造業者の参入が困難とされてる。

加えて、この間の技術革新は、環境負荷に対する軽量化とユニバーサルデザインによるナール形状の多様化を実現して来た。更に、近年のカラーキャップの多様化は、製品プロモーション上不可欠な要素になっている。こうした改良の結果、キャップには多様性が生まれ、ペットボトルキャップの商品文化を成熟させて来た。

しかしながら、キャップ供給メーカー3社は、3月26日 (土) より、これら多品種製造が生産効率低下の原因だとしたキャンペーンを開始し [8,18]、3月29日 (火)、飲料メーカーの業界団体全国清涼飲料工業会 (全清飲) に対して、キャップの共通化・統一化を要請した。いわば、キャップ供給メーカー主導による非常時カルテルの発動である。

そして、4月13日 (水)、全清飲は上記要請を受け入れることで最終的合意に達した [20-26]。その結果、4月下旬より順次、全てのキャップから企業ロゴやブランドロゴが消え、「白 (色) 無地」 に統一されることなった。ただし、全清飲はこれを復旧までの暫定的処置としている [20]。

全清飲会員の中では、かなりの温度差があり、キャップの規格にさほど変化のないサントリー飲料は早々に支持を表明したものの、実験的にネジ山のピッチに新規規格を採用している 『い・ろ・は・す』 と多くの軽量キャップを展開する日本コカ・コーラ社などは、現場との調整に手間取った様子が伺える。

今回の合意により、全体の生産量の1割増が期待されるとはいえ、依然として供給不足であることに変わりはない。何故、キャップ供給各社は、海外の関係先キャップ製造メーカーに緊急支援を要請しないのだろうか、不思議でならない。

日本クラウンコルク社には、韓国に技術的ライセンスを供与している 「三和王冠」 との提携関係があり、日本国内と同一スペックのキャップ製造が行われている。CSIジャパン社には、CSIグループの中国生産拠点として 「天津輸出工場」 (2002年6月操業開始) と 「中国杭州輸出工場」 (2004年6月操業開始) の2工場がある。日本山村硝子社には、中国に 「展誠 (蘇州) 塑料製品有限公司」 (2004年2月設立) があり、またインドネシアに 「サンミゲル山村ウタマ・インドプラス」 (2011年1月操業開始) を関連会社として擁している [19]。確かに、資本関係が無いか、希薄なため、直接的な影響下にはないかも知れないが、緊急時の選択肢として検討すべきではないだろうか。

今回のキャップ危機は、「地震」 「津波」 「原発事故」 「風評被害」 という、これまでに経験したことのないような重層的な緊急事態を契機として発生したものである。しかしながら、本質的には、キャップ製造体制の寡占的構造とキャップ規格のカスタマイズ化の結果として顕在化した問題である。今後、恒常的に内包する問題の解決策を検討しておく必要がある。

              ★

今回の巨大地震による災害では、文明の無力さをまざまざと見せつけられた。利便性の追求や高度な消費社会の実現は、本当に私たちを幸せにしたのだろうか。ペットボトルキャップの危機に際して、顕在化したこうした問題は、遣り残した夏休みの宿題以上に、私たちを苦しめるかも知れない。

『預言者の言葉は、地下鉄の壁に書かれている。そして、安アパートの廊下にも』 (ポール・サイモン)

■ 参考文献 (飲料キャップ関連記事一覧 <時系列>)

[1] 「東北地方太平洋沖地震の被害に関するお知らせ」 日本山村硝子株式会 (2011/03/14)
[2] 「東北地方太平洋沖地震の影響に関するお知らせ(第2報)」 日本山村硝子株式会 (2011/03/23)
[3] 東京都水道局 「水道水の放射能測定結果について ~第17報~」 プレス発表 (2011/03/23)
[4] 「震災、樹脂・加工品の生産直撃 石化市場へ影響深刻に 飲用ボトル原料は品薄感」 日本経済新聞朝刊 (2011/03/24)
[5] 「ミネラルウォーターの需要の増加に伴う対応について」 農林水産省総合食料局長発 22総合第1772号 (2011/03/24)
[6] 「『東北地方太平洋沖地震』 による生産への影響について」 日本クラウンコルク株式会社 (2011/03/25)
[7] 「大震災で需要増 水道水に放射性物質 飲料各社、対応に苦慮 既にフル稼働 資材調達遅れ 一段の増産難しく」 日本経済新聞 (2011/03/25)
[8a] 南日慶子 「水の増産阻むフタ メーカー被災 種類多くて効率ダウン」 朝日新聞夕刊 (2011/03/26)
[8b] 南日慶子 「キャップ不足、ミネラル水の増産ピンチ 工場が被災」 朝日新聞電子版 (2011/03/26)
[10] 「水増産、県内ふる稼動 生産量日本1 注文10~20倍 地下水求め並ぶ列も 何かできる! ~山梨から」 朝日新聞朝刊 (山梨全県) (2011/03/27)
[11] 「被災地支援へ増産 県内企業 原材料調達課題に」 日本経済新聞 (地方経済面/長野) (2011/03/29)
[12] 「ミネラルウォーター 各社が緊急輸入」 朝日新聞夕刊 (2011/03/29)
[13] 「ペットボトル飲料キャップについてのお知らせ」 味の素ゼネラルフーヅ株式会社 ニュースリリース (2011/03/30)
[14] 「ミネラルウォーター 注文殺到、増産急ぐ 四国の事業者増員でも追いつかず / 資材調達、増産の壁に キャップやボトルなど 配送者も確保難しく」 日本経済新聞 (地方経済面/四国) (2011/03/30)
[15] 「食品・日用品品薄続く 容器・包装フィルム不足で」 讀賣新聞朝刊 (2011/04/01)
[16] 「工場再稼動 相次ぐ キリンビール/ビール系飲料 日本コカ/清涼飲料 DOWA/亜鉛」 日本経済新聞朝刊 (2011/04/02)
[17] 「安全求め需要急増、硬水も ミネラルウオーター輸入拡大」 産経ニュース (2011/04/04)
[18a] 「ペットボトルのキャップ共通化 飲料大手、品薄解消へ」 日経速報ニュース (2011/04/07)
[18b] 「ペットボトルのキャップ共通化 飲料大手、品薄解消へ」 日本経済新聞朝刊一面 (2011/04/07)
[19] 「ペット飲料キャップの生産開始:サンミゲル山村、売上2億円目指す[化学]」 NAAASIA [インドネシア版] (2011/04/12)
[20] 「PETボトル用樹脂キャップ白無地 統一のお知らせ」 全国清涼飲料工業会 (2011/04/13)
[21] 「東日本大震災について~ミネラルウォーターの需要増加に伴うペットボトル用樹脂キャップの共通化 (白無地) について~」 農林水産省 報道発表資料 (2011/04/13)
[22] 「ペットボトルキャップ、白無地統一 ミネラルウオーター、品不足の解消目指す」 産経ニュース (2011/04/14)
[23a] 「ペット容器のキャップを共通化 供給能力向上へ」 日経速報ニュース (2011/04/14)
[23b] 「キャップ共通化発表 全国清涼飲料工業会」 日本経済新聞朝 (2011/04/14)
[24] 「東日本大震災:ペットボトルふた、白無地に統一 不足解消で業界団体」 毎日新聞(東京朝刊) (2011/04/14)
[25] 「ボトルキャップ 白色無地で統一へ 飲料大手合意」 朝日新聞朝刊(東京本社) (2011/04/14)
[26] 「ボトルキャップ白に統一」 讀賣新聞朝刊 (2011/04/14)
[27] 青沼陽一郎 「水、コンビニ弁当、納豆、タバコ・・・ 地震でモノじゃなぜ消えた!?」 週刊文春、2011年4月14日号、133-136、2011

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